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軽貨物で単価を上げる方法を調べると、たいていは単発・緊急のスポット便に行き着きます。ただ、それとは正反対の性質を持つ「単価の守り方」もあります。冷凍・チルド配送です。
冷蔵冷凍車という車両投資が入口の壁になっているぶん、代わりのドライバーが簡単には見つからない。だから定期ルートとして長く続き、値切られにくい。2026年8月時点の公開情報をもとに、温度帯の定義から車両選び、投資の回収計算、温度管理の責任範囲までを整理します。
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冷凍・チルド配送とは?温度帯は「法令」と「業界慣行」の二層構造
食品衛生法に基づく「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)では、冷凍食品の保存基準は−15℃以下、食肉・鯨肉などは10℃以下と定められています。これが法令の線です。
一方、昭和46年に行政・関連団体による冷凍食品関連産業協力委員会が策定した「冷凍食品自主的取扱基準」で−18℃以下が定められ、一般社団法人日本冷凍食品協会もこの基準を維持しています。国際規格Codexの急速冷凍食品に関する実施規範(1976年)も同じく−18℃以下を規定しています(日本冷凍食品協会「冷凍食品自主的取扱基準」等の資料)。荷主が現場で求めてくるのは、たいてい後者です。
そして「チルド」は法令用語ではありません。凍結させずに低温を保つ帯の呼び名で、実務ではおおむね0〜10℃、厳しい荷主では−5〜+5℃で運用されます。だからこそ受注前に「何℃で運ぶのか」を数字で確認するのが最初の仕事です。「チルドです」だけで話を進めると、必要な車両が違ったという事故が起きます。
運ぶものは、スーパー・コンビニの日配品や冷凍食品の定期便、ミールキットのラストワンマイル、飲食店への早朝の業務用食材ルート、2〜8℃指定が多い医薬品・検体といったあたりです。
冷凍・チルドの単価が「守られる」構造|スポット便との住み分け
スポット便で高単価を稼ぐ方法は、需要が逼迫すれば単価が跳ね、緩めば落ちる距離課金型です。冷凍・チルドはその逆で、荷主が買っているのは「輸送」ではなく「温度を維持したまま届ける責任」。常温の軽バンなら代わりはいくらでも立ちますが、−20℃対応の冷凍軽バンを持つドライバーは近隣にそう何人もいません。この代替のしにくさが、値下げ圧力への盾になります。
| 比較軸 | スポット便 | 冷凍・チルド定期便 |
|---|---|---|
| 単価の決まり方 | 距離+緊急度。需給で変動 | 車両要件+拘束時間。契約で固定 |
| 単価の安定性 | 上下に大きく振れる | 契約期間中は据え置き |
| 参入のしやすさ | 常温軽バンで即参入 | 冷蔵冷凍車が必須。数十万〜百万円台 |
| 代替されやすさ | 高い | 低い |
| 付帯作業 | 積んで運ぶだけのことも | 検品・温度記録・カゴ車回収 |
| 失注時のダメージ | 小さい | 大きい。車両が余り転用先も少ない |
つまり冷凍・チルドは「上振れを狙う仕事」ではなく「下振れしにくい仕事」です。売上を読めるようにしたい人には噛み合いますが、繁忙期に一気に稼ぎたい人には向きません。
単価はどう決まるのか|「標準的な運賃」から読み解く枠組み
多くの記事が「冷凍は常温より◯円高い」と書きますが、軽貨物の冷凍・チルド単価に、出所を示せる公的相場は存在しません。理由を説明します。
国土交通省は令和6年3月22日、貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)附則第1条の3に基づき「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃」を告示しました(令和6年国土交通省告示第209号)。運賃表を平均約8%引き上げ、次の項目を整理しています(国土交通省 報道発表・別添(告示本文))。
- 特殊車両割増:原価調査の結果に基づき、冷蔵車・冷凍車に割増率2割を設定
- 待機時間料:30分を超える荷待ちに対して設定
- 積込料・取卸料:荷役作業ごとの対価として新設
- 荷待ち・荷役の合計が2時間超:割増率5割を加算
- 燃料サーチャージ:基準価格120円として告示内に規定
国が原価を調べたうえで「冷蔵車・冷凍車は2割増が妥当」と示している点は重要です。温度管理をする車は原価構造が違う、と公的に認められているわけです。
ただし決定的な前提があります。この告示の対象は「一般貨物自動車運送事業」であり、黒ナンバーの貨物軽自動車運送事業には適用されません。軽貨物には参照すべき国の運賃表そのものが無いのです。
だから使えるのは金額ではなく組み立て方です。実務では、1日◯時間で決める時間チャーター、1個いくらの個建て、1か月分をまとめるルート固定の月極のいずれかになります。そのうえで見積もりの席で以下を潰してください。
- 温度帯と許容範囲(何℃か、逸脱の許容幅は何度か)
- 1日の拘束時間と、待機が発生したときの扱い
- 積込み・荷卸しの荷役は誰の仕事か
- 検品・欠品対応・カゴ車回収の範囲
- 燃料高騰時の運賃改定条項の有無
- 温度逸脱・商品事故が起きたときの負担割合
口頭合意ではなく契約書に落としてください(業務委託契約書のチェックポイント)。
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車両3タイプ比較|保冷車・中温冷凍車・低温冷凍車
以下はダイハツ・スズキ公式サイト掲載のメーカー希望小売価格(消費税込・2026年8月時点)による比較です。
| 保冷車 | |
|---|---|
| 冷凍機 | なし(断熱のみ) |
| 対応温度帯 | 設定なし。温度上昇を遅らせるだけ |
| 用途 | 短時間・短距離。保冷剤併用 |
| 新車価格(公式・税込) | スズキ キャリイ保冷車 1,625,800円〜/ダイハツ カラーアルミ保冷車 1,738,000円〜/同FRP保冷車 1,947,000円〜 |
| 中温冷凍車 | |
| 冷凍機 | あり |
| 対応温度帯 | ダイハツは−5℃仕様。スズキ冷凍車は庫内設定−5〜+20℃ |
| 用途 | チルド帯の日配品、飲料 |
| 新車価格(公式・税込) | スズキ キャリイ冷凍車1WAY 2,198,900円〜/同2WAY 2,413,400円〜/ダイハツFRP中温冷凍車 2,244,000円〜 |
| 低温冷凍車 | |
| 冷凍機 | あり(強力型) |
| 対応温度帯 | スズキは庫内設定−20〜+20℃ |
| 用途 | −18℃以下が要る冷凍食品・アイス |
| 新車価格(公式・税込) | スズキ キャリイ低温冷凍車 2,528,900円〜 |
読み取ってほしいのは「冷凍車」とひとくくりにできないことです。中温冷凍車の下限は−5℃前後で、−18℃以下が要求される冷凍食品には届きません。逆に−5℃で足りるチルド案件に低温冷凍車を買えば、130万円以上の差額を無駄にします。
常温軽バンへの後付け架装は初期費用を抑えられますが、断熱パネルの厚みや施工品質にばらつきが出やすく、再販時の評価も読みにくい。中古は価格の幅が非常に大きく「相場は◯万円」と断定できる公表データはありません。温度帯・冷凍機メーカー・スタンバイ装置の有無で動くためです。現車確認では冷凍機を実際に回して設定温度まで下がるかを温度計で実測してください(中古かリースかどっちが得か)。
冷凍機の方式で維持費が変わる|1WAY・2WAY・蓄冷式
直結式(1WAY)は走行用エンジンから動力を取り出す方式です。軽量で価格も抑えられ、スズキ公式でも冷凍車1WAYの駆動方式は「エンジン」と記載されています。弱点はエンジンが止まっている間は冷えないこと。停車中に庫内を保つならアイドリングすることになり、燃料も車も余計に消耗します。
2WAY(スタンバイ付)は走行中はエンジン、停車中は外部電源から交流モーターで回す方式で、スズキ公式でも駆動方式が「エンジン/交流モーター」と明記されています。夜間に電源をつないで予冷できるため早朝積込みのルート便と相性がいい。1WAYとの価格差は公式価格の最安構成同士で約21万5千円です。
蓄冷式は停車中に外部電源で蓄冷板を凍らせ、その冷気で走行中の庫内を保ちます。エンジンに負荷がかからない反面、冷却の持続時間に限りがあり、長時間やドア開閉の多い配送には向きません。冷凍機専用の小型エンジンを別に積むサブエンジン式は、重量増で最大積載量が減るため軽貨物ではほぼ選択肢に入らず、小型トラック以上が中心です。
基準はシンプルで、価格差ではなく1日のうちエンジンを止めている時間で決める。走りっぱなしなら1WAYで足り、待機や予冷があり外部電源が使える拠点があるなら2WAYや蓄冷式に価値が出ます。冷凍機は消耗品で、冷媒ガス補充・コンプレッサー・ドアパッキンが定期的な出費になります(車両メンテナンス費用と洗車・管理術)。
初期費用は何ヶ月で回収できる?自分の数字を入れる計算フレーム
公的な相場が無い以上、他人の収支表を写しても意味がありません。自分の見積もりの数字を入れる枠組みを用意します。変数は3つです。
- C=車両価格差:常温軽バンと温度管理車両の差額
- A=月あたりの単価差:冷凍案件と常温案件の売上差(見積もりから算出)
- B=月あたりの追加コスト:冷凍機の点検・ガス補充、燃費悪化分、保険料増、庫内清掃
回収月数 = C ÷(A − B)
| 組み合わせ(税込・2026年8月時点の公式価格) | 価格差 C |
|---|---|
| キャリイ KC 1,172,600円 → キャリイ保冷車 1,625,800円 | 453,200円 |
| ハイゼットカーゴ デラックス 1,270,500円 → FRP中温冷凍車 2,244,000円 | 973,500円 |
| キャリイ KC 1,172,600円 → キャリイ低温冷凍車 2,528,900円 | 1,356,300円 |
中温冷凍車でC=973,500円だとして、仮に A=50,000円/月、B=15,000円/月 と置くと、973,500÷(50,000−15,000)=約27.8ヶ月。大事なのはこの数字ではありません。AとBは案件ごとに違うので、あなたの答えは別の数字になります。見積もりを受け取った瞬間にこの式へ入れられる状態にしておくことが本題です。
逆算も有効です。車検2回分にあたる約48ヶ月で回収したいなら、必要な(A−B)は 973,500÷48=約20,300円/月。提示条件がこれを下回るなら、常温のまま走ったほうが手元に残ります。この一本の線があれば「冷凍だから儲かるはず」という気分での判断を避けられます。
Bで忘れやすいのは、車両価格が上がれば車両保険の保険料も上がる点です(事業用の任意保険の選び方)。またAは「案件が続く限り」の話で、契約が1年で切れれば回収も途中で止まります。
リースで冷凍冷蔵車を用意するという選択肢
リースは上の式のCを平準化する手段です。まとまった価格差を初期に払う代わりに、月額としてBの側へ移す構造になります。初期投資が小さく、整備・税金・保険込みのプランなら支出も読みやすい。
問題は中途解約です。冷蔵冷凍軽バンは常温軽バンより転用先の案件が少ないため、契約を切られたときに「仕事はないのにリース料だけ残る」状態になりやすい。勘所はリース期間と業務委託契約の期間がねじれていないかです。3年リースに対して業務委託が半年更新なら、そのリスクは全部自分持ちになります(リース中途解約の違約金はいくらか)。
温度管理の実務責任|記録・事故・弁償・HACCP
単価が守られる理由はこの責任を引き受けているからです。裏を返せば、ここを軽く見ると単価差が一瞬で吹き飛びます。
温度記録:多くの荷主が庫内温度の記録を求めます。データロガー、温度計の写真、配送アプリへの入力など方式はさまざまで、機器を誰が用意し誰が費用を持つのかを契約前に決めてください。
HACCPは「法令上不要」と「契約上必要」が別:東京都保健医療局の解説では、食品の貯蔵・運搬のみを行う営業は衛生管理計画の作成・記録保存の義務の対象外とされています。つまり食品を運ぶこと自体に食品衛生法上の許可・届出は原則不要です(冷凍・冷蔵倉庫業は除く。東京都保健医療局 営業届出リーフレット)。しかし荷主や元請けが自社のHACCP計画の一部として温度記録や手順書の提出を求めることは普通にあります。法令ではなく契約上の義務なので、対応工数を単価に織り込んでください。
温度逸脱と弁償:この事故の厄介さは外から見えないことです。荷崩れなら現場でわかりますが、解凍や温度逸脱は納品後に荷主側で発覚します。原因がドライバーの管理不足か、積込み前から温度が上がっていたのか、冷凍機の故障かの切り分けが難しく、負担割合でもめる典型です。契約書に責任分担条項があるか必ず確認してください(配送中の事故対応・元請けへの報告の流れ)。
冷凍機の故障は配送不能に直結します。代車手配の責任が自分か元請けかを契約時点で決めておく。加えて冷凍案件は食品系の大手元請けが多く、2025年4月施行の貨物軽自動車安全管理者の選任義務など書類まわりの確認も常温案件より厳格な傾向があります。
冷凍・チルド案件の取り方
単価が最も高くなりやすいのは食品系の元請け・物流子会社への直接アプローチですが、台数や実績の要件は厳しい。マッチングサービスなら「冷凍」「冷蔵」「チルド」で絞り込めます(仕事の見つけ方・主要5サービスの単価比較)。最も現実的な入口は今の委託先に冷凍案件の有無を聞くことです。
最重要の注意点は車を買ってから案件を探すのは順番が逆だということ。先に温度帯・拘束時間・契約期間を固め、そのうえで車両仕様を決めてください。いきなり低温冷凍車で勝負をかけず、保冷車や中温冷凍車で実績を作ってから上の帯へ移る段階的な入り方も有効です。
公開情報の要点:食品衛生法に基づく規格基準では冷凍食品の保存基準は−15℃以下、食肉・鯨肉等は10℃以下。業界の自主基準と国際規格Codexでは−18℃以下が運用ラインです。運賃面では、国土交通省が令和6年3月22日に告示した「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃」で、原価調査に基づき冷蔵車・冷凍車に割増率2割の特殊車両割増が設定され、30分超の待機時間料、荷役ごとの積込料・取卸料、荷待ち・荷役合計2時間超の5割割増が規定されました。ただし対象は一般貨物自動車運送事業であり、貨物軽自動車運送事業(黒ナンバー)には適用されません。軽貨物の冷凍・チルド単価に公的な基準値は存在せず、条件は元請けとの個別交渉で決まります。
よくある質問
Q1. 冷凍・チルド配送は常温よりいくら単価が高いのですか?
軽貨物について、出所を示せる公的な相場はありません。国土交通省の「標準的な運賃」では冷蔵車・冷凍車に2割の特殊車両割増が設定されていますが、これは一般貨物自動車運送事業が対象で、黒ナンバーには適用されない数字です。温度帯・拘束時間・荷役範囲を提示して実際に見積もりを取ることが、唯一の確認方法になります。
Q2. 黒ナンバーの軽バンで冷凍食品を運ぶのに特別な許可は必要ですか?
貨物軽自動車運送事業の届出は当然必要ですが、食品を運ぶこと自体について食品衛生法上の営業許可・届出は原則不要です。東京都保健医療局の解説でも、食品の貯蔵・運搬のみを行う営業は衛生管理計画の作成義務の対象外とされています。ただし荷主側の要求として温度記録が求められることは多く、それは契約上の義務です。制度は改定されることがあるため、開始時に最新の公式資料と契約書の双方を必ず確認してください。
Q3. 保冷車で冷凍食品は運べますか?
保冷車は断熱材で温度上昇を遅らせるだけで、温度を下げる冷凍機を積んでいません。−18℃以下の維持が求められる冷凍食品を長時間運ぶ用途には向きません。スズキ公式サイトでも保冷車には庫内設定温度の記載がなく、冷凍車には−5〜+20℃、低温冷凍車には−20〜+20℃と明記されています。保冷剤併用の短時間配送なら成立しますが、要求温度帯と配送時間から逆算して決めてください。
Q4. 中古の冷凍軽バンを買うとき、どこを見ればいいですか?
年式と走行距離だけでは判断できません。冷凍機の稼働時間、実際に冷やして設定温度まで下がるかの温度計による実測、ドアパッキンの劣化、断熱パネルの割れや浸水を確認してください。中古価格は温度帯・冷凍機メーカー・スタンバイ装置の有無で大きく変わるため、一律の相場を示すことはできません。可能なら冷凍機の整備記録も見せてもらってください。
Q5. 2WAY(スタンバイ付)は必要ですか?
停車中や夜間にエンジンを止めた状態で庫内を冷やす必要があるかで決まります。外部電源が使える拠点があり朝の積込み前に予冷したいなら価値があります。走りっぱなしのルートなら1WAYで足ります。価格差はスズキ公式価格の最安構成同士で約21万5千円です。
まとめ
軽貨物の冷凍・チルド配送は「高単価案件を探す」話ではなく、参入障壁を自分で買って代替されにくい立場を作る話です。
- 温度帯は法令(冷凍食品−15℃以下、食肉等10℃以下)と業界基準(−18℃以下)の二層構造。「チルド」は法令用語ではないので必ず℃で確認する
- 軽貨物に国の標準運賃は適用されない。公的相場は存在せず、条件は個別交渉で決まる
- 参照できるのは金額ではなく枠組み。時間チャーター/個建て/月極のどれか、待機と荷役の扱い、燃料改定条項を見積もり時に潰す
- 保冷車・中温冷凍車・低温冷凍車は用途が別物。案件の温度帯を確定してから買う。順番を逆にすると100万円単位で外す
- 方式は価格差ではなく、エンジンを止める時間と外部電源の有無で選ぶ
- 回収は「C÷(A−B)」に自分の数字を入れる。48ヶ月で回収したいなら必要な月額差が逆算できる
- リースはCを平準化できるが、リース期間と業務委託期間のねじれが最大のリスク
- 温度記録・温度逸脱時の負担・代車手配は開始前に契約書で確認する
単価そのものではなく、単価が守られる構造をどう手に入れるか。まずは既存の委託先に冷凍案件の有無を聞くところから始めてみてください。


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