軽貨物の個人事業主に健康診断は必要?義務の範囲・受け方・費用と経費の扱い

経営・独立

軽貨物の個人事業主として独立すると、会社員時代のように毎年届いていた健康診断の案内はなくなります。「自分で受けないといけないのか」「そもそも義務なのか」「どこで、いくらで受けられるのか」「費用は経費になるのか」。この記事では、これらの疑問を法令と省庁の公開資料だけを根拠に整理します。

先に結論を書くと、労働安全衛生法の健康診断義務は「労働者を使う事業者」に課されたもので、一人で走る個人事業主本人には直接かかりません。一方で、貨物軽自動車運送事業者には貨物自動車運送事業輸送安全規則で「運転者の健康状態の把握」が求められており、国土交通省はその解釈として事業主自身が乗務する場合も含めて健康診断の受診を位置づけています。つまり「罰則付きの受診義務」とは言い切れないものの、事業のルール上は年1回の受診を前提に考えるのが実務的です。

  1. 結論:立場によって「健康診断の義務」の中身が変わる
  2. 労働安全衛生法の健康診断義務は「労働者を使う事業者」のもの
    1. 第66条が義務を課している相手
    2. 一人で走る個人事業主に労安法の健診義務がかからない理由
    3. 厚労省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」の考え方
  3. 貨物軽自動車運送事業者として求められる「健康状態の把握」
    1. 輸送安全規則第3条第6項:健康状態の把握と乗務制限
    2. 解釈通達:事業主が乗務する場合も健診の対象に含まれる
    3. 毎日の点呼(第7条)でも体調の確認が必要
  4. ドライバーを雇うと、事業者として健診義務が発生する
    1. 雇入時・定期・深夜業従事者の健康診断
    2. 結果の記録・通知・事後措置
    3. 業務委託のドライバーに仕事を回す場合
  5. 委託元から健康診断の結果を求められたら
  6. 健康診断の受け方:3つの選択肢と費用の考え方
    1. 特定健診:国保加入の40〜74歳ならまず確認したい
    2. がん検診:年齢と間隔を押さえる
    3. 特定健診と「会社の定期健診」は項目が違う
    4. 40歳未満なら自費の一般健診が中心
  7. 健康診断の費用は経費になる?医療費控除は?
    1. 本人の健診費用は原則として必要経費にしない
    2. 医療費控除の対象になるケース
    3. 従業員の健診費用
  8. 運転の仕事で特に注意したい健康リスク:SASと脳・心臓の病気
    1. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
    2. 脳血管疾患・心臓疾患
  9. 受診したあとにやること
  10. よくある質問
    1. Q1. 健康診断を受けていないと、軽貨物の事業ができなくなりますか?
    2. Q2. 国民健康保険の特定健診だけで十分ですか?
    3. Q3. 39歳以下はどこで健康診断を受ければいいですか?
    4. Q4. 人間ドックの費用は確定申告で経費や控除にできますか?
    5. Q5. ドライバーを1人だけ雇う場合も健康診断は必要ですか?
    6. Q6. 睡眠時無呼吸症候群の検査は受けたほうがいいですか?
    7. Q7. 委託元に健康診断の結果をすべて渡す必要がありますか?
  11. まとめ
  12. 参考情報

結論:立場によって「健康診断の義務」の中身が変わる

健康診断をめぐるルールは、「誰が」「誰に対して」負うものかで整理すると分かりやすくなります。まずは立場別の早見表です。

立場 労働安全衛生法の健診義務 輸送安全規則上の「健康状態の把握」 実務上の目安
一人で事業を行う個人事業主(従業員なし) かからない(事業者=労働者を使用する者のため) かかる。国交省の解釈通達は、事業主等が乗務する場合も含むと明記 年1回、自分で健康診断を受け、結果を手元に保管
ドライバーを雇用している事業者 かかる(雇入時・年1回の定期健診など) かかる(雇用ドライバーと、乗務する事業主本人の両方) 従業員に受診させ結果を記録・保存。自分も受診
他の個人事業主に業務委託している事業者 委託先は労働者ではないため、原則かからない 委託先が自分で貨物軽自動車運送事業の届出をしていれば、委託先自身が負う 厚労省ガイドラインに沿って受診機会や情報提供に配慮

以下、それぞれの根拠を順に見ていきます。

労働安全衛生法の健康診断義務は「労働者を使う事業者」のもの

第66条が義務を課している相手

一般に「会社の健康診断」と呼ばれているものの根拠は、労働安全衛生法第66条第1項です。条文は「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない」という構造になっています。

ここでいう「事業者」は、同法第2条第3号で「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と定義されています。また「労働者」は同条第2号で労働基準法第9条に規定する労働者とされ、同居の親族のみを使用する事業で使用される者は除かれています。

一人で走る個人事業主に労安法の健診義務がかからない理由

従業員を雇わず一人で配送している個人事業主は、そもそも「労働者を使用する事業者」に当たりません。また、委託元と業務委託契約を結んで働いている限り、委託元にとっても原則として労働者ではありません。そのため、労働安全衛生法第66条の「事業者が労働者に健診を行う義務」は、一人親方の個人事業主本人には直接はかからない、という構造になります。

ただし、契約の名目が業務委託でも、実態として指揮命令を受けて働いていれば労働者と判断される可能性があります。この線引きは健康診断に限らず労災や社会保険にも関わるため、雇用と委託の違いは軽貨物でドライバーを雇う・業務委託する違いで詳しく整理しています。

厚労省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」の考え方

法律上の義務がないからといって、国が個人事業主の健康診断を放置しているわけではありません。厚生労働省は「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」を公表しており、その中で、労働者であれば一般健康診断を受診する必要があることを参考にして、個人事業者等は1年に1回、健康診断を受診することとしています(厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」)。あわせて、40歳から74歳までの人は加入している医療保険者が行う特定健康診査を受けられることにも触れています。

このガイドラインは法的な罰則を伴うものではなく、個人事業者と仕事を発注する側(注文者等)それぞれに自主的な取り組みを促す位置づけです。

貨物軽自動車運送事業者として求められる「健康状態の把握」

軽貨物の個人事業主にとって、労働安全衛生法よりも直接関係するのが、貨物自動車運送事業法とその下の省令である貨物自動車運送事業輸送安全規則です。貨物自動車運送事業法第2条は「貨物自動車運送事業」を一般・特定・貨物軽自動車運送事業の3つと定義しており、輸送安全規則のうち主語が「貨物自動車運送事業者」となっている条文は、貨物軽自動車運送事業者にも適用されます。

輸送安全規則第3条第6項:健康状態の把握と乗務制限

輸送安全規則第3条第6項は、貨物自動車運送事業者に対し、乗務員等の健康状態の把握に努め、疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全に運行の業務を遂行できないおそれがある乗務員等を運行の業務に従事させてはならない、と定めています。

条文自体は「把握に努め」という書き方ですが、何をもって「健康状態の把握」とするかは、国土交通省の通達「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」で具体化されています(国土交通省 解釈通達)。

解釈通達:事業主が乗務する場合も健診の対象に含まれる

この解釈通達(国交省サイト掲載版は令和8年6月26日最終改正)は、「健康状態の把握」とは、乗務員等(事業主等が事業用自動車の運行の業務に従事する場合には、当該者を含む。)が受診する労働安全衛生法第66条第1項に定める健康診断などを行うこと、等をいうと示しています。

つまり、労働安全衛生法そのものは個人事業主本人に健診を義務づけていないものの、運送事業の安全ルールの解釈としては、自分でハンドルを握る事業主も「健康診断を受けて健康状態を把握すべき人」に含まれている、ということです。国土交通省が貨物軽自動車運送事業者向けに作成したリーフレットでも、「健康状態の把握」の項目で雇入れ時や1年に1回の健康診断に触れたうえで、一人で事業を行っている場合でも自ら安全対策を実施する必要があると案内しています。

さらに、国交省の「一般的な指導及び監督の実施マニュアル(貨物軽自動車運送事業者編)」は、健康診断の受診の必要性の項目で、一人で事業を行っている個人事業主であっても受診が必要だと明記しています(国土交通省 実施マニュアル)。

毎日の点呼(第7条)でも体調の確認が必要

健康診断は年に一度の確認ですが、日々の体調確認は点呼で行います。輸送安全規則第7条は、業務前の点呼で運転者に対し、酒気帯びの有無に加えて「疾病、疲労、睡眠不足その他の理由により安全な運転をすることができないおそれの有無」について報告を求め、確認することを定めています。点呼の記録は1年間保存が必要です(e-Gov法令検索 貨物自動車運送事業輸送安全規則 第7条第5項)。

一人で事業をしている場合について、解釈通達は、アルコール検知器を使った酒気帯びの確認や車両の日常点検など第7条各号の事項を自ら確認し、運行の可否を判断する方法を示しています。国交省のリーフレットも、一人の場合は自ら確認し、同居の家族がいれば体調を客観的に見てもらうことも有効だとしています。

点呼や記録の義務は、2025年4月から選任が必要になった貨物軽自動車安全管理者の業務とも重なります。制度の全体像は貨物軽自動車安全管理者とは?講習内容・費用・申込方法を参照してください。

ドライバーを雇うと、事業者として健診義務が発生する

事業を拡大してドライバーを雇用すると、あなたは労働安全衛生法上の「事業者」になり、健康診断の実施義務を負います。

雇入時・定期・深夜業従事者の健康診断

  • 雇入時の健康診断(労働安全衛生規則第43条):常時使用する労働者を雇い入れるときに実施。雇入れ前3か月以内に受けた健診結果の書面が提出されれば、相当する項目は省略できます。
  • 定期健康診断(同規則第44条):常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回実施。既往歴・業務歴の調査、自覚症状・他覚症状の検査、身長・体重・腹囲・視力・聴力、胸部エックス線、血圧、貧血、肝機能、血中脂質、血糖、尿、心電図の各検査が項目です(一部は医師の判断で省略可)。
  • 特定業務従事者の健康診断(同規則第45条):同規則第13条第1項第3号に掲げる業務には「深夜業を含む業務」が含まれており、これに常時従事する労働者には、配置替えの際と6か月以内ごとに1回の健診が必要です。夜間配送に常時従事させる場合は該当しうるため注意が必要です。

結果の記録・通知・事後措置

健診を受けさせて終わりではありません。事業者は結果に基づいて健康診断個人票を作成し5年間保存すること(同規則第51条)、受診した労働者へ結果を通知すること(労働安全衛生法第66条の6)、異常の所見がある労働者について医師の意見を聴くこと(同法第66条の4)が求められます。医師の意見を踏まえて、必要に応じ労働時間の短縮などの措置を講じる義務もあります(同法第66条の5)。

なお、労働安全衛生法第120条は、第66条第1項などの規定に違反した場合の罰則(50万円以下の罰金)を定めています(e-Gov法令検索 労働安全衛生法 第120条)。

業務委託のドライバーに仕事を回す場合

雇用ではなく、他の個人事業主に業務委託(再委託)する場合、相手は労働者ではないので、労働安全衛生法の健診義務は原則として発生しません。ただし厚労省のガイドラインは、注文者等に対して、健康診断に関する情報提供や受診機会への配慮(受診時間の確保など)を求めています。同時に、ガイドラインは注文者等に個人事業者等の健康診断結果の取得を求めるものではない、とも明記しています。

雇用に伴う社会保険・労働保険の手続き全体は雇用と業務委託の違いの記事で、個人事業主本人の社会保険については軽貨物個人事業主の社会保険(国民健康保険・国民年金)で解説しています。

委託元から健康診断の結果を求められたら

委託元や元請によっては、契約時や定期的に健康診断の結果(写し)の提出を求めることがあります。これは法律が委託元に義務づけているものではなく、各社の契約条件や安全管理の方針によるものです。個別の企業がどのような条件を設けているかは公式に確認できた範囲がないため、ここでは一般的な対応の考え方を整理します。

  • 契約書・募集要項で確認する:提出の要否、頻度、必要な検査項目(胸部エックス線や心電図を含むか等)を事前に確認します。
  • 必要な項目を満たす受け方を選ぶ:後述のとおり、市区町村の特定健診は労働安全衛生規則の定期健診と項目が完全には一致しません。提出先が定期健診相当の項目を求める場合は、不足分を追加するか、一般健診を自費で受ける必要があります。
  • 提出範囲を確認する:健康診断の結果は、個人情報保護法施行令で要配慮個人情報に位置づけられている情報です。提出目的と、どの範囲の情報を出せばよいかを確認してから渡しましょう。
  • 自分用の控えを残す:輸送安全規則の「健康状態の把握」の観点からも、結果は自分で保管しておくと安心です。

健康診断の受け方:3つの選択肢と費用の考え方

会社の健診がない個人事業主の選択肢は、大きく分けて「医療保険者の特定健診」「市区町村のがん検診」「医療機関で自費受診(一般健診・人間ドック)」の3つです。

受け方 対象 実施主体・申込先 主な内容 自己負担の考え方
特定健康診査(特定健診) 医療保険の加入者で40〜74歳 加入している医療保険者(国民健康保険なら市区町村、国保組合ならその組合) 問診、身体計測、血圧、肝機能、血中脂質、血糖、尿など 保険者ごとに決定。無料にしている自治体もある
がん検診 市区町村に住む一定年齢以上の人(がんの種類で異なる) 住所地の市区町村 胃・大腸・肺・乳・子宮頸がんの検診 多くの市区町村で費用の多くを公費負担。一部自己負担あり
一般健診(自費) 年齢制限なし 健診を行う医療機関 労働安全衛生規則第44条の項目に準じたメニューを選べる 全額自己負担。料金は医療機関ごとに異なる
人間ドック(自費) 年齢制限なし 医療機関 一般健診より検査項目が多いコースが中心 全額自己負担(保険者や自治体の助成がある場合も)

特定健診:国保加入の40〜74歳ならまず確認したい

特定健診は、高齢者の医療の確保に関する法律第20条に基づき、医療保険者が40歳以上の加入者に対して行う健診です。実施基準を定めた厚生労働省令では、対象を年度内に40歳以上75歳以下の年齢に達する加入者(75歳未満の人)としており、75歳以上は後期高齢者医療広域連合の健康診査の対象になります。

個人事業主の多くは国民健康保険に加入しているため、住所地の市区町村から受診券が届く、または申し込みで受けられるのが一般的です。自己負担額について厚労省は、各保険者の判断で決めてよいとしており(厚生労働省 特定健康診査等に関するQ&A)、市区町村によって無料のところも負担があるところもあります。金額は住所地の市区町村の案内で確認してください。

がん検診:年齢と間隔を押さえる

厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」では、市区町村が行うがん検診の対象と間隔を次のように定めています(厚生労働省 がん検診実施のための指針)。

  • 胃がん:50歳以上、原則2年に1回(胃部エックス線検査は当分の間40歳以上を対象とし、年1回実施も可)
  • 大腸がん・肺がん:40歳以上、年1回
  • 乳がん:40歳以上の女性、原則2年に1回
  • 子宮頸がん:20歳以上の女性、原則2年に1回

実際の対象年齢・検査方法・自己負担額は市区町村ごとに異なります。特定健診と同じ日に受けられるよう案内している自治体もあるため、あわせて確認すると効率的です。

特定健診と「会社の定期健診」は項目が違う

意外と知られていないのが、特定健診と労働安全衛生規則第44条の定期健康診断では基本項目が異なる点です。

検査項目 定期健康診断(労安則第44条) 特定健診(基本項目)
問診・身長・体重・腹囲・血圧 あり あり
肝機能・血中脂質・血糖・尿 あり あり
視力・聴力 あり 基本項目にはない
胸部エックス線 あり 基本項目にはない
貧血検査・心電図 あり 基本項目にはない(医師が必要と認めた場合の詳細項目として実施されることがある)

運転の仕事では視力や心臓の状態も重要です。委託元から定期健診相当の結果を求められている場合や、自分で網羅的に確認したい場合は、特定健診に不足する項目を自費で追加するか、最初から一般健診のコースを選ぶと安心です。

40歳未満なら自費の一般健診が中心

39歳以下は特定健診の対象外です。市区町村によっては若年層向けの健診を独自に実施している場合もあるため、まず住所地の案内を確認し、なければ医療機関の一般健診(自費)を利用します。

健康診断の費用は経費になる?医療費控除は?

確定申告で気になるのが税金上の扱いです。ここは「経費(必要経費)」と「医療費控除」を分けて考えます。

支出 事業の必要経費 医療費控除
事業主本人の健康診断・人間ドック 原則として算入しない扱いが一般的(家事費・家事関連費の考え方による) 原則対象外。ただし重大な疾病が見つかり、引き続き治療した場合は対象
特定健診の自己負担額 同上 原則対象外。一定の基準に該当し、医師の指示で特定保健指導が行われた場合は対象
雇用している従業員の健康診断 福利厚生費として扱うのが一般的 (従業員本人の控除とは別の話)

本人の健診費用は原則として必要経費にしない

国税庁のタックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」では、家事上の費用は必要経費にならず、家事と業務の両方に関わる家事関連費は、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限って必要経費になると説明されています(国税庁 No.2210)。事業主本人の健康診断は本人の健康管理という私的な性格が強いため、必要経費に算入しない扱いが一般的です。事業主本人の健診費用を必要経費にできると明示した国税庁の案内は確認できませんでした。判断に迷う場合は所轄の税務署や税理士に確認しましょう。

医療費控除の対象になるケース

国税庁の「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」とその関連Q&Aでは、人間ドックや健康診断の費用は治療ではないため原則として医療費控除の対象にならないとしています。ただし、健康診断の結果、重大な疾病が発見され、かつ引き続きその疾病の治療を行った場合は、その健康診断は治療に先立つ診察と同様に考えられるため、費用も医療費控除の対象になります(所得税基本通達73-4/国税庁 No.1122関連Q&A)。

特定健診についても、結果が高血圧症・脂質異常症・糖尿病と同等の状態と認められる基準に該当し、引き続き特定健診を行った医師の指示に基づいて特定保健指導が行われた場合は、自己負担額が医療費控除の対象になるとされています。

医療費控除は、その年に支払った医療費から保険金などで補てんされる金額を差し引き、さらに10万円(総所得金額等が200万円未満なら総所得金額等の5%)を差し引いた額が控除額になります(上限200万円・国税庁 No.1120)。また、一定の健康診断などを受けている人は、医療費控除との選択でセルフメディケーション税制を使える場合があります。確定申告全体の流れは軽貨物ドライバーの確定申告完全ガイドを参照してください。

従業員の健診費用

雇用しているドライバーの健康診断は事業者の義務として行うものなので、事業の費用として扱うのが一般的です。国税庁の質疑応答事例では、役員や特定の地位の人だけでなく一定年齢以上の希望者全員を対象に会社が人間ドック費用を負担する場合、給与として課税する必要はないとの考え方が示されています(所得税基本通達36-29/国税庁 質疑応答事例)。

運転の仕事で特に注意したい健康リスク:SASと脳・心臓の病気

健康診断の結果が「異常なし」でも、運転業務では見落とされやすいリスクがあります。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

国土交通省の「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」は、SASの主な症状として、大きないびき、睡眠中の呼吸停止を指摘される、息苦しさで目が覚める、起床時の頭痛、日中の強い眠気などを挙げています。一方で、必ずしも眠気を自覚するとは限らず、疲労感と区別しにくい点に注意が必要だとしています。同マニュアルでは、SASの人はそうでない人に比べて交通事故のリスクが約2.4倍であることが示されている、と紹介されています(国土交通省 SAS対策マニュアル)。

同マニュアルによると、SASスクリーニング検査は精密検査が必要かどうかを判断するための簡易な検査で、パルスオキシメトリ法やフローセンサ法など自宅でできるものがあります。検査頻度は2〜3年に1回が目安とされ、スクリーニングで疑いがあれば早めに精密検査を受ける必要があります。また、スクリーニングの段階では運転業務の可否は判断できないとされています。いびきや日中の眠気が気になる場合は、医療機関に相談してください。

脳血管疾患・心臓疾患

国交省の「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」は、運転に影響する主な疾病として眼疾患、神経疾患、脳血管疾患、心臓疾患などを挙げ、背景に高血圧などの生活習慣病があることを指摘しています。健康診断で血圧や血糖、脂質の異常を指摘された場合は、放置せず医療機関を受診することが事故防止につながります。国交省は脳血管疾患や心臓疾患・大血管疾患についても事業者向けのガイドラインを公表しています。

腰痛対策や日々の体力づくりといった日常の健康管理は軽貨物ドライバーの体力維持と腰痛対策で、病気やケガで働けなくなったときの収入の備えは所得補償保険の選び方でまとめています。

受診したあとにやること

健康診断は受けて終わりではなく、結果を事業の安全管理に生かすことが大切です。

  1. 結果を保管する:紙でもデータでもよいので、毎年の結果を一か所にまとめておきます。委託元から提出を求められたときにもすぐ対応できます。
  2. 要精密検査・要治療は早めに受診する:異常の所見がある場合は、医療機関で精密検査や治療を受けましょう。重大な疾病が見つかって治療した場合は、前述のとおり健診費用が医療費控除の対象になることがあるため、領収書も保管しておきます。
  3. 点呼の判断基準に反映する:服薬の状況や医師からの注意事項を踏まえ、「この体調なら今日は運行しない」という自分なりの基準を決めておくと、毎日の点呼が形だけになりません。
  4. 働き方を見直す:厚労省のガイドラインも、異常の所見がある場合は仕事のペースの見直しなど必要な措置を講じることが重要だとしています。年齢を重ねても続けるための考え方は軽貨物ドライバーは何歳まで働けるかも参考にしてください。

よくある質問

Q1. 健康診断を受けていないと、軽貨物の事業ができなくなりますか?

一人で事業をしている個人事業主本人について、健康診断を受けていないことを理由とした罰則を定めた条文は確認できませんでした。労働安全衛生法の罰則は、労働者に健診を行わない事業者が対象です。ただし、輸送安全規則の解釈通達や国交省のマニュアルは、事業主自身が乗務する場合も健康診断による健康状態の把握を求めています。事業のルールとして年1回は受けておくのが安全です。

Q2. 国民健康保険の特定健診だけで十分ですか?

自分の健康状態を知る目的なら、特定健診は費用負担が小さく有力な選択肢です。ただし、胸部エックス線・心電図・視力・聴力などは基本項目に含まれません。委託元から定期健診相当の結果を求められている場合や、運転に関わる項目も確認したい場合は、不足する項目を追加するか一般健診を選びましょう。

Q3. 39歳以下はどこで健康診断を受ければいいですか?

特定健診は40歳以上が対象のため、39歳以下は医療機関の一般健診(自費)が中心になります。市区町村によっては若年層向けの健診や、20歳以上の女性向けの子宮頸がん検診などを実施しているため、まず住所地の案内を確認してください。

Q4. 人間ドックの費用は確定申告で経費や控除にできますか?

事業主本人の人間ドック費用は、必要経費に算入しない扱いが一般的です。医療費控除についても原則対象外ですが、人間ドックで重大な疾病が見つかり、引き続き治療を行った場合は医療費控除の対象になります(国税庁タックスアンサーNo.1122関連Q&A、所得税基本通達73-4)。

Q5. ドライバーを1人だけ雇う場合も健康診断は必要ですか?

常時使用する労働者を雇い入れるときは、人数にかかわらず雇入時の健康診断が、その後は年1回の定期健康診断が必要です(労働安全衛生規則第43条・第44条)。深夜業を含む業務に常時従事させる場合は6か月以内ごとの健診が必要になることもあります。短時間勤務のドライバーが対象になるかどうかは勤務条件によるため、労働基準監督署などで確認してください。

Q6. 睡眠時無呼吸症候群の検査は受けたほうがいいですか?

国交省のSAS対策マニュアルは、自覚症状の問診だけで対象者を絞ると重症の人を見逃すおそれがあるとして、医療機器によるスクリーニング検査を定期的に受けることを重要としています。いびきを指摘される、日中に眠気が出る、体重が急に増えたといった場合は、医療機関に相談してみてください。

Q7. 委託元に健康診断の結果をすべて渡す必要がありますか?

提出を求めるかどうか、どの範囲を求めるかは委託元の契約条件によります。厚労省のガイドラインは、注文者等に個人事業者等の健康診断結果の取得を求めるものではないとしています。求められた場合は、目的と必要な項目を確認したうえで対応しましょう。

まとめ

  • 労働安全衛生法の健康診断義務は「労働者を使用する事業者」に課されたもので、一人で走る個人事業主本人には直接かからない。
  • 一方、輸送安全規則第3条第6項の「健康状態の把握」について、国交省の解釈通達は事業主が乗務する場合も含めて健康診断の受診を位置づけている。国交省のマニュアルも一人の個人事業主の受診を必要としている。
  • ドライバーを雇えば、雇入時・年1回(深夜業の常時従事者は6か月以内ごと)の健康診断、結果の記録・通知などの義務が発生する。
  • 受け方は、特定健診(40〜74歳の医療保険加入者)、市区町村のがん検診、自費の一般健診・人間ドック。自己負担は自治体・保険者・医療機関ごとに異なる。
  • 本人の健診費用は原則として必要経費にしない扱いが一般的。医療費控除は、重大な疾病が見つかり治療した場合などに限って対象になる。
  • SASや脳・心臓の病気は運転中の事故に直結するため、気になる症状があれば早めに医療機関へ相談する。

参考情報

  • e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(第2条・第66条〜第66条の7・第120条)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
  • e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(第13条・第43条〜第45条・第51条)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
  • e-Gov法令検索「貨物自動車運送事業法」(第2条)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000083
  • e-Gov法令検索「貨物自動車運送事業輸送安全規則」(第3条・第7条)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/402M50000800022
  • e-Gov法令検索「高齢者の医療の確保に関する法律」(第20条)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/357AC0000000080
  • e-Gov法令検索「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」(第1条)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/419M60000100157
  • 国土交通省「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/resourse/data/construction_kamotsu.pdf
  • 国土交通省「貨物軽自動車運送事業者における安全対策」リーフレット
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001768524.pdf
  • 国土交通省「一般的な指導及び監督の実施マニュアル(貨物軽自動車運送事業者編)」
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/resourse/data/k_truck_honpen.pdf
  • 国土交通省「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03manual/data/sas_manual.pdf
  • 国土交通省「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03analysis/resourse/data/h26_3.pdf
  • 国土交通省「健康起因事故防止のためのマニュアル・ガイドライン」
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03manual/index.html
  • 厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」
    https://www.mhlw.go.jp/content/001257620.pdf
  • 厚生労働省「特定健康診査等に関するQ&A(自己負担)」
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info03e_4.pdf
  • 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001266928.pdf
  • 厚生労働省「がん検診」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html
  • e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律施行令」(第2条・要配慮個人情報)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/415CO0000000507
  • 国税庁 タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.1122 医療費控除の対象となる医療費
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
  • 国税庁 No.1122 関連Q&A(人間ドック・健康診断等の費用)
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122_qa.htm
  • 国税庁 質疑応答事例「人間ドックの費用」
    https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/09.htm
  • 国税庁 質疑応答事例「人間ドックの費用負担」
    https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/03.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.2210 必要経費の知識
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
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